基礎研WEB政治経済学用語事典

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 領主制

 唯物史観やマルクス主義の影響を強く受けた歴史学において、一般に資本主義的生産様式に先立つ生産様式は封建的生産様式である。だが、封建制という語は、主君が封土を臣下に下賜し、その見返りに臣下が主君に忠誠を誓う国王と貴族の間の、あるいは貴族と騎士の間の主従関係を表す場合もあり、西洋経済史では、混同を避けて、この生産様式の支配的生産関係である領主と農民の関係、特に所領における領主による農民支配を表す語として領主制(Seigniorial System)という語を用いてきた。
 
 もっとも、所領における領主と農民の関係は、領主による農民の人格自体に対する支配、領主による土地の独占、裁判権の掌握など多様な側面を持ち、さらに、領主は、所領に属さない近隣の独立自営農民からもその収穫の一部を徴収でき、領主の影響力は必ずしも所領の内部にとどまらない。領主制のイメージは領主と農民の関係のどの側面を強調するのか、あるいは領主支配の対象をどこまで考えるのかによって微妙に異なり、領主制という語は西洋経済史の研究者の間でも多義的である。
 
 その一方で、アジアやラテンアメリカなど非ヨーロッパ地域の社会経済史研究が進展するにつれて、同様の社会関係がヨーロッパに限らないこともわかってきた。ヨーロッパの領主制では典型的に、農業生産が圧倒的に優位な産業構造の下、農民が先祖伝来の土地を家族単位で耕し、食糧をはじめ生活物資の大部分を農民保有地から得る一方、領主は政治権力や宗教的権威を背景に、農民保有地での収穫の現物徴収や領主直営地での労働賦役を農民に課した。領主は小作料や租税などの名目で、多くは市場取引を介さずに農民から農産物を取得する。非ヨーロッパ地域でも、その呼称は地域ごとに、また身分や社会的地位によってさまざまであれ、大土地所有者や在地有力者は各地で、ある一定の領域に「主人」として君臨した。そこでの「主人」と農民の関係さらには両者を取り巻く社会環境はヨーロッパの領主制と多くの点で似通っている。
 
 領主による農民支配すなわち領主制はヨーロッパに限らない。その多様性と普遍性を考慮に入れるとき、領主制とは、広く近代以前の社会において、領主が一定の地理的範囲に影響力を行使し、多くの農民がその影響下に置かれるような領主と農民の社会関係であると考えられる。
                                       (関根順一)